渋治の書庫

渋治の書庫

メンテ中

絆創膏

そのささくれを唇に刺してなんとか生きています。 可哀想だとか、悲しいだとか思わなくてよいのです。 あなたがそんな顔をすればするほど、ああ、やっぱり絆創膏を貼っていれば良かったと思ってしまうのですから。 ああ、またそうやって頭のてっぺんで私をみ…

繊維

赤と灰色の繊維の隙間に人差し指を突っ込むと見える景色を見たくて今日も私はここにきた。けれど、間もなく音をたてて飯を食らう奴が母のコートに腕を通す時間だろうから。私と一滴とも交わらぬ血の持ち主がなぜそこにいるのかが未だわからないのだが、毛む…

雨の日の歌

あ~めのひ あ~めのひ うれし~いね~ あ~めのひ あ~めのひ た~のしいね~ 赤い 長靴 履きたいね みずたまり ぱちゃ ぱちゃ やりたいね お気に入りの 赤い傘 さしたいね 雨粒 くるくる 飛ばしたいね あ~めのひ あ~めのひ うれし~いね~ あ~めのひ あ…

キレイナモノ

せせらぐ川も空の透ける青葉も少し冷たい風もくるくる回る花びらもやわらかな笑みもあたたかいベッドもまた明日の白い掌もいつかもそのうちも大丈夫も健康もよくおやすみも希望の扉も期待のリボンも夢のつゆもあれもこれもなにもかもいりませんそんなものが…

橙のなる頃には

橙のなる頃には さとこは男勝りだから仕方ないですね。そういって私の体をひとくくりにしてしまう人のことは小指の隙間に落とし込むようにしてきました。ただ、あのキラキラしたものがあなたの好むものなら、あのキラキラしたものの反対側にいってやれという…

さすらいの歌

一 ぼくは うたう さすらいのうた 愛でも 恋でも ありません ましてや 人生じゃ とてもない ただただ さすらう さすらいのうた 二 あなたの すきな あの人が あなたを すきで ありますよに あなたが 明日も 笑えるよに ただ ただ ねがう ねがいのうた どうし…

渡り

おとうさま あのひとは どうして あちらをむいたり こちらをむいたり ばかりしているの 娘や あの人は あちらを向いたら こちらが こちらを向いたら あちらが気になって 仕方がないのだよ おとうさま あのひとは いつになったら わたることが できるの 娘や …

五行歌

-梅日和- 船頭さんは 流します あたしとあの人の 儚かないひとときを 梅香に乗せて -背中- その広い背中 抱きしめずに いられない 少しだけ もう少しだけ -木漏れ日- 縁側に 布団と三毛と おまいさんがいる チラチラ木漏れ日 しあわせよ -夜 道- 走…

影法師

走っても 走っても 走っても 走っても… 本をここから あそこに移動 させた 鍋を磨いた 冷蔵庫を開けた 耳を塞いだ 髪をといた ディップを つけた 金を持った 火をチェック した 階段を駆け 下りた 又戻った ノブを回した 指差し確認した ドアを閉めた 風を吸…

センチメンタル

麻子はたくさんの咳をし ましたから、同い年のと なりの都ちゃんは怖くて 怖くてしかたなかったの です。 ……あさちゃんはなんで いつもおかおがあかいの。 なんでコホコホばかりし ているの。…… 生まれたてのほわほわの 産毛をまといメジロのよ うにくりくり…

右手

右の犬歯がどうも最近ぐらついてきた。それだ から飯を食う時にそ奴がグラグラして何とも頼り な気で、いっそもいでしまおうかとも考えるのだ が、一度そ奴を捻ってみたところまだその時期で ないことをそ奴は 「ぶきっ」という悲鳴で教えてくれた。だが私は…

ねんねん坊やの子守唄

ねんころ ねんころ ねんころりん ねんねん ころりん ねんころりんねんねん坊やは ウワバミの口 かあさんそれ見て 腰抜かす はぜの木止まって 目をこらすお次は何を食わしましょ お次は何を食わしましょねんころ ねんころ ねんころりん ねんねん ころりん ね…

地団駄

私はこんな風体だったか。 私はこんな風になる為 に生まれてきたんではないはずだ。見よ、この憐 れな姿を。皮膚は擦り切 れ所々腫れ上がっている ではないか。私の顔はこんなんではなかったぞ、 私の顔はもっと面長でキリリとしていたはずだ。あぁ、悲しい…

眠る子

うつらうつらと 闇夜に浮かぶ 白い着物が ゆらゆらするよ ゆらゆら着物は 摺り足で 障子の向こうの 仄明かり 薄目を開ければ 鬼笑う 屈めた腰に 大きな舌 固く閉じれば ぞろりと撫でる 開けば地獄 鬼の舌 鬼の舌

宿無し女のブルース

あたいは宿なし。 それはあたいが望んだこと 誰に文句もありゃしないさね。あたいはそれで、じめじめしたこの都会の片隅が大層気に入っておりましてね、いいこともそうでないこともそりゃ色々ありますがね、すべて水に流してなんとかやっとります。時に 心根…

時には

時には… 来世 あの世 まだあるのかこの先がいつか、 どこでもよい、 どんなでもよい、終わり というものが あれば 救われる それが あるから 生きられる生きるに 意味はない 追求すれば 切りがない ましてや ただ全てが 運命(サダメ)なら あがいても もがいて…

小鳥

小鳥 小鳥とゆう名の 小鳥がおりました小鳥とゆう名は このおうちの ぼっちゃんが おつけになりました小鳥という名の小鳥に 親はおりません 小鳥とゆう名の 小鳥の親は とうのむかしに 死にました とうのむかしの ことですから 小鳥とゆう名の 小鳥は なにも…

五行歌 

-写 真- 写真に写らない理由 魂を抜かれるから 写真に写る理由 葬式用 あなたらしくて涙出る -風 邪- 発熱、寒気、頭痛 鼻水、鼻詰、喉痛 咳、肩凝り、耳鳴り 倦怠感、食欲不振 あと少しで良くなる -八 朔- はっさく はっさく はっさくを 三つ食べたら…

繊維

赤と灰色の繊維の隙間に人差し指を突っ込むと見える景色を見たくて今日も私はここにきた。 けれど、間もなく音をたてて飯を食らう奴が母のコートに腕を通す時間だろうから。 私と一滴とも交わらぬ血の持ち主がなぜそこにいるのかが未だわからないのだが、毛…