渋治の書庫

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メンテ中

宿無し女のブルース

 
 
あたいは宿なし。
それはあたいが望んだこと
誰に文句もありゃしないさね。

あたいはそれで、じめじめしたこの都会の片隅が大層気に入っておりましてね、いいこともそうでないこともそりゃ色々ありますがね、すべて水に流してなんとかやっとります。

時に
心根が
疼いて
若いもんと
同じようなことも
してみますがね、

いや~
これが
どうにも
こうにも、
身体の方が
思うように
動いてくれませんでね、
そん時ゃ
年甲斐もなく
泣けてきましてね、
 
 
ふふっ…
 
 
  
 
 
知り合いの
おやっさんがね、
先だって
亡くなりましてねぇ。
おやっさんも
やっぱり
似たようなもん
でしてね、
 

 若いもんには負けん!!


そう言って、
あの日
あん子らが
よく行く
この先の
バーに
行ったんですわ。

はあ…
あたいはね、
やめときなよ…
って、
止めたんですがね、
え~。
おやっさん
頑固でね、
それ以上どうすることも
できんかった
んですわ…。 
 
 
 

おやっさん、
あん子らに
からかわれながらも、
その店で
一番の
別嬪さんのいる
カウンター席に
向かったんですわ。
 
 
  
 
ところが、
おやっさん、
別嬪さんの
ずっと手前で
緊張のあまり
動けなく
なっちまいましてね。
それから
程なくして、
口髭を
生やした
マスターが
やってきましてねぇ、
おやっさん、
そいつに
摘み上げられちまった
んですわ。

おやっさんには
申し訳ないがね、
決して
綺麗な風
でもなし、
どっちか
言ったら…
人好きのする
風情じゃありません
からですねぇ…
あたいらは。
 


それで
あの
別嬪さんが
気付きましてね、
別嬪さん
それから
おやっさんの
顔を
潤んだ
眼差しで
しばし
見つめた後、
赤い口
から
青白い
煙りを
スー…

吐き出すと、
聖母
のような
柔らかい
声で
言ったんだってさ…。
 
 
 
 
-マスター…
   塩…-

 
 
 
はぁ……
今夜は
冷えるねぇ…
なに
笑ってんのさっ、
あんたら
若いと
思って
いい気に
なってんじゃないよ。
あんたらも
いずれ
そうなんだよっ。




なぁ…
あんたらさぁ…
これは
ほんとに
ほんとの
素朴な疑問
なんだけどさぁ、
あたいら
歳しゃ~
離れてっけどさ、
同類なんだよ。
なぁ、
これぽっちも同情ってもんは
湧かないのかぃ。




なっ、
ちょいと、
なんだよ
あんたら!?
ちょっ、
よしとくれよっ!?
なんて顔すんのさ。
あんたら
若いもんに
そんな
暗い顔は
似合わない
ってーのっ。 
 
 
たっ…
ったく、
なんなんだよ、
日頃
なんの
苦も
ありゃしないような
顔して
怖いもんなし
みたく
傍若無人
に振る舞って
んのにさ、
そっ、
そんな
しんみりすんじゃないよっ!!
  
 
 
  
…気が…
…抜けんじゃないか…
 



あたいらはさ、
あんたらの
その
溌剌とした
いつだって
自信に満ち溢れた
そして、
こまっしゃくれた
(小生意気)
屈託ない
飛びっ切りの
笑顔が
大好きなんだよ。

おやっさん
だって、
そうさ。
あんたら
若いもんに
気力
貰ってたんだよ。
だから、
だから…
あん時も…。

あんたら
若いもんが
そんな
暗い顔してちゃ
駄目なんだよ!!
あんたらが
そんな顔してちゃ
この街は
終いさね。
おやっさんも
浮かばれないよ。




いいんだよ。
そんな
大人ぶんなくともさ。
わかってるさ、
子供扱い
する気は
ないさ。

けど
いずれ
そんな歳に
なんだからさ、
あんたらも。

焦んなくて
いいんだよ。
あんたらの歳にゃ
あたいらも
そうだったさ。

-今-

-自分-

-幸せ-

それが
全てだったんだからさっ。

けどねぇ、
同類として
これだけは
言っとくよ。




女と塩
には
よくよく
気をつけんだよっ。




あたいは
宿なし。

けれど
あたいが
望んだことだもの
誰に
文句も
ありゃしないさね。

ただね、
ただ…
夢を
見たい
時も
…あるって
ことなんですよ…
 
 

    一
  夜の帳が
  下りる頃
  しとしと
  ネオンが
  燈ります
  しとしと
  ネオンは
  愛おしげに
  宿なし女を
  抱きます
 
   ニ
  宿なし女の
  見る夢は
 
  たいそな
  夢では
  ありません
  今日も
  明日も
  あさっても
  此処に
  こうして
  いたいだけ
 
  ぬらり
  ぬらぬらぬらりらと
  宿なし女は
  今日もまた
  ぬらり
  ぬらぬら
  ぬらりらと
  銀の足痕
  残します
  
  ゆらり
  ゆらゆら
  ゆらりらと
  ネオンの
  揺り篭
  身を任せ
  ゆらり
  ゆらゆら
  ゆらりらと
  明日を
  夢見て
  おやすみよ
  宿なし女の
  ブルースよ

 
『宿なし女のブルース』 
 作詩 歩く人
 作曲 森人



ぬ~らり~
  ぬら~ぬら~
 
   宿なし女は
 今日~もまた~
 ぬ~らり~
  ぬら~ぬら~
 
  銀の足痕~
 残し~ま~す~
 ゆ~ら~り
  揺られ~て~
   お~やすみよ~♪  

   …ヒック…
  


 -おしまい-




 2013.12/6移動