渋治の書庫

渋治の書庫

メンテ中

さすらいの歌

 
 
 
    一

 ぼくは
 うたう
 さすらいのうた
 愛でも
 恋でも
 ありません
 ましてや
 人生じゃ
 とてもない
 ただただ
 さすらう
 さすらいのうた
 
 
    二

 あなたの
 すきな
 あの人が
 あなたを
 すきで
 ありますよに
 あなたが
 明日も
 笑えるよに
 ただ ただ
 ねがう
 ねがいのうた



どうして人は欲しがるの
そうして何かを
失うの
見えない何かに
惑わされ
触れない何かに
触れようとするの
逆らうな
されど
立ち止まるな
わかった振りして
また足踏みする



 ぼくは うたう
 今日もまた
 あなたに
 うたう
 明日もまた
 うたうは
 静かな 夜のうた
 あなたが
 涙を
 拭えるうた
 あなたが
 眠りにつけるうた
 
 
 らら~ら~
 らら~ら~ 
 らら~ら~らら~
 らら~ら~
 らら~ら~
 らら~ららら~


 あなたに うたう
 あなたへのうた
 ただただ
 うたう
 あなたへのうた
 さすらいのうた
 
 
 

渡り

 
 
 
おとうさま
あのひとは
どうして
あちらをむいたり
こちらをむいたり
ばかりしているの


娘や
あの人は
あちらを向いたら
こちらが
こちらを向いたら
あちらが気になって
仕方がないのだよ






おとうさま
あのひとは
いつになったら
わたることが
できるの



娘や
あの人は
いずれ
時期がきたら
渡ることが
出来るのだよ



おとうさま
じきってなあに
 
 
娘や
時期というのは
最良の時なのだよ
 
 

さいりょうのとき?




おとうさま
わたしたちも
じきがきたの



娘や
私達も
時期がきたのだよ



おとうさま
わたしたちは
どこに
わたるの




娘や
私達は
これから
あたたかいところに
渡るのだよ




おとうさま
あたたかいところは
よいところ




ああ
よいところだよ
 



おとうさま
しろいとりさんが
いっぱいとんである


ああ
娘や
白い鳥が
たくさん
飛んで在るね
さあ
私達も
そろそろ
渡るよ


 
おとうさま
わたしたちも
わたるの?



ああ
ここも
随分と
寒く
なってきたからね
 





お二人さん
そろそろ
よいかしら



ああ
かあさん
待たせたね
そろそろ
行こうか



おかあさま
どこに
いっていたの



娘や
おかあさまは
おじさんに
ご挨拶
してたのよ
いつも
私達に
おいしい
パンを
下すった
おじさんにね



おかあさま
わたしも
ごあいさつ
したかったわ



娘や
おまえは
おとうさまと
ずっと
おしゃべり
していたのだもの



おかあさまわたしも
ごあいさつ
したかったわ



娘や
もう
行かなくては
ならないの
ほら
みんな
飛び立って
行ってるわ



おかあさま
わたしも
ごあいさつ
したいわ



かあさん
少しなら大丈夫だよ
娘もご挨拶が
したいのだよ
いつも
私達に
おいしい
パンを
下すった
おじさんにね


娘や
わかったわ
でも
一つだけ
きちんと
覚えておくのよ



おかあさま
おぼえておくことってなあに 



娘や
その時というのは
その時にしかないの
あるとするなら
それはたまたま
チャンスが
あったってことなの



ちゃんす?



そう
チャンス
チャンスは
いつだって
訪れるものでは
ないわ
だから
その時を
おしゃべりで
ふいにしないことが
大切なの 
 



おかあさま
おしゃべりは
よくないことなの?



娘や
おとうさまと
おしゃべりして
どんなだった




おかあさまおとうさまと
おしゃべりして
うんと
たのしかったわ




そうね
おしゃべり
っていうのは
うんと楽しいものね
おかあさまも
大好きよ
けれど
大切な事を
忘れてしまう程の
おしゃべりは
おしゃべりが
過ぎるというものだわ


 
 
さあさあ
娘や
おじさんの
ところへ
行っておいで
その時が
過ぎてしまう前に
 
 
おとうさま
おかあさま
いってまいります
 



あなた
今日は質問責め
だったようね



ううん
私が話しを
したかったのだよ



そうなの



ああ
あの子も
段々と
大きくなって
いくからね



ええ



いつか
質問さえ
してくれなく
なる日が
来るかもしれない



ええ



それに
明日何が
起きるかなんて
分からないからね
今を大事に
しようとね
思ったのだよ
 



あの方は
まだ
渡れないのね



ああ
まだ
渡れないようだね



もう何年に
なるかしら



そうだね
けれど
私達が
ここに
初めて来た時より
随分薄らいで
きたようだね



そうね
あの頃はまだ
はっきりして
いましたものね



少しずつ
少しずつ
だね



そうね
少しずつ
少しずつ
ですね
 


かあさん
私が先に
逝ったら
早く次の
幸せを
見つけるのだよ



あなた
いわれなくとも
早く見つけるわ
あなたも
早く見つけてね



それは
難しいな



あら
ずるいのね



 
 

おとうさま
おかあさま
おじさんに
ごあいさつ
してきたわ



そう
ちゃんと
ご挨拶できたかしら



おかあさま
ちゃんと
ごあいさつ
できたわ



そう



わたしたちは
じきがきたから
わたるの
じきというのは
さいりょうのときなの
だから
わたしたちは
わたるのと
いったの
そうしたら
じきがきたら
またあおうねと
おじさんが
いったの
それから
いつも
おいしいパンを
ありがとうと
いったの
そうしたら
こちらこそ
たべてくれて
ありがとうと
おじさんが
いったの
それから
それからね
  





 






 -おわり-
 
 

五行歌

   -梅日和-

 
 船頭さんは
 流します
 あたしとあの人の
 儚かないひとときを
 梅香に乗せて
   



   -背中-


その広い背中
抱きしめずに
いられない
少しだけ
もう少しだけ
 



 -木漏れ日-


 縁側に
 布団と三毛と
 おまいさんがいる
 チラチラ木漏れ日
 しあわせよ
 


 
 -夜 道-


 走って 走って
 走ったよ
 夜道をね
 一人でね
 ひたすらね
 
 
 


 -待ちぼうけ-


 白い月 大きな月
 あたしはいつも
 待ちぼうけ
 けれども嬉し
 待つは恋しい人だもの
 
 
 


 -逢い引き-


あの日
永遠とも思える別れを
二度と繰り返しはしない
もうすぐ行くよ 
もうすぐだよ 
 



 ―雨―


 静かな
 静かな
 この時を
 目を閉じ耳閉じ
 過ごします
 



 ―雨 粒―


 ぽつん
 ぽつりん
 ぽつ ぽつりん
 鉄の格子に
 ぽつ ぽつりん
 



  ―涙 雨―

 今日も涙の
 雨が降る
 懺悔と詫びと後悔の
 枕噛み締め
 声殺す
 
 
  


 ―雨上がり―


 ふと見上げた
 明かり取りの窓
 雀が一羽
 毛繕い お前も生きてんだなぁ 






  -咲けば幸(長話)-


誰かのため
何かのため
そうやってきて
振り返る道に
黄色い花でも咲けば幸
 
誰かのため
何かのため
そうきて
振り返る道に
何もなくとも幸


あれも自分
これも自分
何かを見つけ
見つけず
それに気付けば全て幸


かけられた声
かけられた腕
かけられた毛布
かけられた思い
それに気付けば幸
 
 
見上げれば天
下を向いて地
右みて左みて
何かに気付けば幸





 -センタクモノ

センタクモノ
カゼニユレテイマス
シャツガブラウスニ
チャチャヲイレテイマス
カゼヨモットフケ


 


 -あなた-

おまえのためだと
あなたはいう
あなたのためと
あたしはいう
ただすきなだけなのに


花をみれば花に
雲をみれば雲に
タオルの隅に
爪楊枝の先ちょに
あなたが見える








 *五行歌-五行に込める歌

影法師


走っても
 走っても
走っても
 走っても…





本をここから
あそこに移動
させた
鍋を磨いた
冷蔵庫を開けた
耳を塞いだ
髪をといた 
ディップを
つけた
金を持った
火をチェック
した
階段を駆け
下りた
又戻った
ノブを回した 
指差し確認した
ドアを閉めた
風を吸った
本屋に寄った
ページを捲った
トマトを触った
冷たくて気持ち良かった
アクセルを踏んだ
音楽をかけた
橋を渡った
見知らぬ土地に着いた




景色が変わった
空気が変わった




もう 着いてこない?
もう 大丈夫?




TVを見た
本を見た
けんかした
仲直りした
季節が変わった
電話が鳴った
ジェット音が
頭の中を通り過ぎた




走っても 走っても
走っても 走っても




耳を塞いでも目を閉じても
ドアを開けても本を左にや
っても植木を持ち上げても
楽しくても
泣いていても
嬉しくても
幸せでも
走っても走っても
走っても走っても走っても走っても・・・・・・





ついてくる 影法師
 

センチメンタル

 
麻子はたくさんの咳をし
ましたから、同い年のと
なりの都ちゃんは怖くて
怖くてしかたなかったの
です。




……あさちゃんはなんで
いつもおかおがあかいの。
なんでコホコホばかりし
ているの。……




生まれたてのほわほわの
産毛をまといメジロのよ
うにくりくりとまん丸い
目をした都ちゃん。小首
を少し傾けまるで無垢に
そういう都ちゃんは、そ
れからこうも言いました。





……あのね、みやこの
おとうさまとおかあさま
がいってたよ。あさちゃ
んはこわいおびょーきな
のだからちかよっちゃな
らないよって。だからみ
やこ、もうあさちゃんと
そばないの。……
 
 



私はその頃まだ十才で中
途半端に大人になりかけ
でしたし、麻子は当たり
前のようにあたしより全
てが子供でしたし、本当
は都ちゃんみたく雨の日
に赤い長靴をはいて水た
まりをぱしゃぱしゃして
みたかっただろうし…。
都ちゃんはあの日はしゃ
ぎすぎて転んでしまって
ひざ小僧を思い切りスリ
むいてしまってあんあん
と泣きじゃくっていたの
だけれど、そんなことも
麻子は羨ましかっただろ
うし、それに、それに…
転んだのはあたしのせい
だなんて都ちゃんが言う
もんですからあたしはも
う、麻子の為というより
、自分の為に都ちゃんと
は絶交してしまいました
から、麻子には悪いこと
をしたなと思いましたが

 

 

お母様は私に、佳子はお
ねいちゃんなのだから麻
子をかわいがってやらな
くてはね。麻子はご病気
なのだから丈夫なあなた
が守ってやらなくてはね
。などといいましたが、
私は学校のお友達と遊ん
だり、帰り道に同級生の
町子ちゃんみたくくじ引
き屋さんに寄って苺アメ
にしようかヨーグルトに
しようかとか、銀色の眼
鏡の形をした赤やら青や
ら黄色をした丸いチョコ
レートを指でぷすっと二
、三個取り出してコロッ
と口にほおりこんで、そ
れから、それから…
     ・
     ・
     ・
   




   * * *




おねいちゃん、どうしたん




…ずずっ…




おねいちゃん、おなかいたいん




うるさいっ!!




あさこ、おなかさすってやろか




…うっ…




おねいちゃん、なあ、おねいちゃーん




…るい…んや…




……




…あんたが悪いんや




…おねい…ちゃん?




あんたが悪いんや…あんたがいけんのやーっ!!
あんたが弱いけんいけんのやーーーっ!!
うあーーああーーん





…おねいちゃん…





うあーーああーーん





おねいちゃん、なあ、おねいちゃん、
あたしがいけんの?
あたしがいけんかったん?





うるさいっ!!





ごめんな、ごめんな、おねいちゃん





うるさいうるさいっ!!





おねいちゃん、おねいちゃん、
もうあさこのことすかんの?






…うっ…ぐっ…うる…ざ…うあーああんーん 


   



 

     ・
     ・
     ・
     ・




都ちゃんを突き飛ばした
のは私です。町子ちゃん
のお気に入りなお花の匂
いのする鉛筆を隠したの
は私です。麻子にひどい
ことを言ったのは私です
。お父様とお母様の私に
ならなくてごめんなさい
。私はとうとう十五歳に
なってしまいました。あ
んな悪いことをしたのに
私は制服を着ています。
もともと色の白い顔に襟
元の白が反射してますま
す白くなった気がします
。なんだかすっかり身綺
麗になった気もしますが
、その透ける肌の奥に最
近見え隠れするなにか黒
いシミのようなものが私
には気掛かりです。この
黒いシミはこれからます
ます広がっていくでしょ
う。
 


勉強も今よりもっとしま
すし、お友達も今よりも
っとできますし、いろん
なことを今よりもっとも
っと知りますし、そうや
っていろんなものが入っ
てくるとこの黒いシミは
ますます広がってゆくの
だと思います。そうなっ
たら今よりもっと恐ろし
いことをしてしまうと思
います。それがわかって
いるのですから、こうす
ることは仕方のないこと
だと思います。きっと、
穏やかで聞き分けのよい
お父様も、綺麗で頭の良
いお母様も、黒いシミが
あるはずです。ただそれ
を見せないように上手く
隠しているに違いありま
せん。大人はみんなそう
だと思います。大人とは
そういうものなのだと思
います。それが大人にな
るということなのだと思
います。私は白い肌が自
慢です。私は綺麗な物が
好きです。だから、これ
以上シミを作りたくない
のです。


  
私をなんてバカな子と思
うでしょうか。なんて可
哀相などと悲しむでしょ
うか。それとも、みんな
を苦しめた私をいい気味
だと笑うでしょうか。け
れど、どうかあまり長く
私のことを考えたり悩ん
だりしないで下さい。私
はこうするしかないと思
いましたし、今の私に出
来ることはこれしかない
と思いましたし、本の読
み過ぎだとかなにかにか
ぶれたわけでもありませ
ん。ただ、みんなが幸せ
になればいいなと思った
だけのお話しですし、い
い加減、肩の荷を降ろし
たくなった。それだけの
お話です。そして、それ
は全て私の意思なのです
からみんなに責任はあり
ません。だから、お父様
やお母様や麻ちゃんや、
それから都ちゃんや都ち
ゃんのお父様お母様を悪
く思わないで下さい。お
願いします。



最後にもう少しだけ書か
せて下さい。きっとこれ
で、あなたも救われると
思います。そして、明日
からまた新しい気持ちで
あなたの生活を始めるこ
とができると思います。
 


麻子は元気です。麻子は
家から少し離れたおじい
ちゃん先生と呼ばれるお
年よりの先生のいる病院
薬をもらって二週間くら
いですっかり元気になり
ました。都ちゃんも元気
です。ひざ小僧の傷も二
日でかさぶたになって三
日目にはかゆくなったら
しく、都ちゃんがいじっ
ている間に皮がむけて見
事綺麗になったのですか
ら。麻子と都ちゃんはそ
れから毎日遅くまで遊ん
でいましたし、だいたい
、うちの親も都ちゃんち
の親もおおげさなのです
。たかが流行り風邪(後に
なって分かりましたが)
なんかによってたかって
騒ぎ過ぎです。そんなつ
まらないことで大騒ぎす
る大人たちに、いつの世
も何も知らない子供たち
は振り回され悩まされも
てあそばれるばかりです
。ほとほと大人が嫌にな
りました。けれど私もき
っと同じような大人にな
ると思います。だって、
みんな同じ人間ですもの




長くなりました。
それでは行きます。



みなさん、
お元気で
ごきげんよう
さようなら。
 



 来月十六になる
 はずだった佳子より